官能ストーリー

ひとつの恋

 十五時四十三分発の「のぞみ」に乗るために、あたしは京都駅のホームへ上がってきた。
 もちろん、ジャンも一緒。
 一月の京都駅のホームは寒い。
 あたしは、コートの襟に首をすくめた。
 コートの下は黒いレザーのミニにロングブーツ。
 その腰を抱いてくれているのは、フランス人のジャン。
 カメラマンで、あたしの今回のお客さま。
 あたしは那智夏美。
 日本を訪れたお客さまに通訳とガイドをするのがお仕事。
 得意は英語とフランス語で、特にフランス語は学生時代にパリで五年も暮らした経験から自信がある。
 三十路を越えたばかりだけど、ひとから二十四、五歳にしか見えないと言われる。
 もちろん、夫はいる。
 でも、理解のあるひとで、子供がいないせいもあって仕事を続けることを許してくれている。
 あたしは、この仕事が大好き。
 特技を生かして、いろいろな国のひとと会えるのは楽しいし、いろいろな意味で親しくなれる。
 そう、いろいろな意味で。
 ジャンは、四十三歳だそうだけど、若い頃からスポーツを続けていてがっちりした体がたくましい。
 今回は、通訳とガイドのほかに、もう一つ別のお仕事があった。
 それは、カメラマンであるジャンのモデルを務めたこと。
 東京で会ってから、ずっと口説き続けられ、京都に着く直前に承諾した。
 四泊五日の京都観光の間に、お寺や神社などでジャンのカメラの前に立った。
 そして、時には誰もいないのを確かめて、お寺のお庭でヌードも撮られた。
 レンタカーの中で裸になり、毛皮のコートだけを羽織って外に出て、隙を見ての撮影だった。
 その毛皮のコートも、京都に来てから撮影のためにジャンが買ってプレゼントしてくれた。
 もちろん、ジャンの目的は最初からあたしのヌードを撮ることだった。
 ホテルのお部屋の中では、全てをさらしてジャンに撮られた。
 そう、全てをさらして。
 とても公表出来ないような写真を、記念だというジャンのために撮らせてあげた。
 そんなあたしの恥ずかしい姿態が、彼のデジタルカメラの中には何十枚と入っている。
 そこまで女がさらした以上、何もないことはない。
 京都でのホテル滞在中は、あたしにとって物凄く濃密な時間が流れた。
 ホテルにいる間は、せっかく用意した可愛い下着も、ほとんど着ける暇がなかったと言ってもいい。
 夕食をとりにレストランへ行く時でさえ、ジャンの希望でスカートの下には何も着けていなかった。
 ジャンにキスをされただけで、あたしは濡れた。
 恥ずかしい部分を舌先でなぶられながら、体を震わした。
 彼の愛撫は体の隅々までに及び、限界を超えたあたしは泣きながら彼を求めた。
 たくましい体に貫かれながら、なんどとなく失神をした。
 そして、気がつくと飽くこともなく彼を求め続けた。
 あたしが、この仕事を始めてから、何人ものお客さまに抱かれている。
 全て、あたしが好意を持ったお客さまばかりだけど、その中でもジャンは特別な存在だと思う。
 そうでなければ、あんな恥ずかしい写真を撮らせることはない。
「夏美、楽しい旅行だったよ」
 新幹線が入ってくるのを待ちながら、あたしを見下ろして言う。
「あたしもよ、ジャン。今日でお別れだと思うと寂しいわ」
「こんどは、夏美をパリに招待するよ」
 それは、どのお客さまも口にする言葉だ。
 でも、ジャンのそれは本当の約束だと思った。
「きっとよ。そして、沢山愛してね」
「もちろんだよ」
 二人の会話はフランス語だ。
 周りには誰もいなかったけど、いたとしてもわかるひとは少ないに違いない。
 腰を抱いている腕に力が込められて、あたしは思わず体の力が抜けそうになってジャンにしがみついた。
 ちょうど通りかかったビジネスマンが、そんな二人を見て軽蔑したような表情を見せた。
 でも、あたしは気にしない。
 あたしは夫を愛している。
 それは、いまでも変わらない。
 でも、体がジャンを恋していた。
 その恋の終わりを告げるように、電子音がホームに鳴り響いて、「のぞみ」が入ってきた。
「いえ、始まりかも知れない」
 グリーン車の中に入りながら、あたしはそう思った。
(この項おわり)
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